腕の血管が使えなくなった場合に、「胸」に作製されるバスキュラーアクセスには、大きく分けて二つの主要な選択肢があります。それは、「胸部人工血管(グラフト)内シャント」と、「長期留置カテーテル」です。まず、「胸部人工血管内シャント」は、腕に作るグラフトシャントの応用編です。これは、フッ素樹脂などで作られた、直径6mm程度の柔らかいチューブ状の人工血管(グラフト)を、胸の皮膚の下に埋め込み、心臓に近い太い動脈と静脈とを繋ぐ方法です。例えば、腕の付け根近くの上腕動脈と、胸の中心近くを走る太い静脈(腋窩静脈や内胸静脈など)を、人工血管でU字型やループ状にバイパスします。透析の際には、胸の皮膚の上から、この埋め込まれた人工血管に直接針を刺して、血液の出し入れを行います。腕に比べて、より体の中心に近い、太く血流の豊富な血管を利用するため、安定した血流量を確保しやすいという利点があります。もう一つの重要な選択肢が、「長期留置カテーテル」です。これは、厳密には「シャント」ではありませんが、胸部を利用する主要なバスキュラーアクセスです。首の付け根(内頸静脈)や、鎖骨の下(鎖骨下静脈)の皮膚から、柔らかいカテーテルを挿入し、その先端を心臓の入り口近くにある太い中心静脈まで進めて留置します。体外に出ているカテーテルの接続口に、透析の回路を直接つなぐことで、血液の出し入れを行います。手術は比較的簡単で、すぐに使用を開始できるというメリットがあります。どちらのアクセスを選択するかは、患者さんの残された血管の状態、全身状態、そして感染症のリスクなどを総合的に考慮し、医師と患者が十分に話し合って決定されます。