胸部に作製された人工血管(グラフト)シャントへの穿刺は、腕のシャントへの穿刺とは、いくつかの点で異なります。患者さんにとっては、痛みや管理の方法について、新たな不安を感じるかもしれません。まず、「穿刺の実際」ですが、基本的な手技は腕のグラフトと同じです。透析のたびに、胸の皮膚の上から、グラフトに沿って2ヶ所、脱血用と返血用の針を刺します。胸部は、腕に比べて脂肪層が厚い場合があるため、穿刺を行う看護師や臨床工学技士には、グラフトの位置や深さを正確に把握する、熟練した技術が求められます。穿刺される際の「痛み」については、個人差が大きいですが、腕よりも痛みを強く感じるという方もいれば、逆に、あまり変わらないという方もいます。腕の穿刺と同様に、穿刺予定部位に、事前に局所麻酔のテープやクリームを使用することで、痛みを大幅に軽減することが可能です。また、胸部は、自分で穿刺部位を見下ろすことが難しいため、恐怖心が和らぐという心理的な側面もあります。次に、「自己管理」についてです。シャントを長持ちさせるための基本である、「見て、聴いて、触る」という毎日のチェックは、胸部シャントでも全く同じように重要です。目で見て、穿刺部位の周りに赤みや腫れ、傷がないかを確認します。胸にそっと聴診器を当てて、「ザーザー」というシャント音がいつも通り聞こえるかを確認します。そして、グラフトの上に指先を軽く置いて、血液が流れる細かい振動(スリル)を感じるかを確認します。これらのいずれかに異常を感じた場合は、シャントの狭窄や閉塞、感染の兆候である可能性があるため、すぐに透析施設に連絡する必要があります。また、穿刺後の止血も重要です。胸部は、腕のように、反対の手で圧迫するのが難しい場合があります。その際は、体の向きを工夫したり、家族に協力してもらったりしながら、確実な止血を心がけましょう。穿刺部位は変わっても、自分の命綱を自分で守るという、自己管理の基本精神は、何ら変わることはありません。