在宅血液透析(HHD)を始めるにあたって、多くの患者さんが最も高いハードル、最大の心理的な壁と感じるのが、「自己穿刺(じこせんし)」、つまり、自分自身のシャント血管に、自分で透析用の太い針を刺すという行為です。毎週3回、医療のプロである看護師や臨床工学技士にやってもらっていた、あの痛みを伴う行為を、本当に自分でできるようになるのだろうか。失敗してしまったらどうしよう。その恐怖心から、在宅血液透析という素晴らしい選択肢を、最初から諦めてしまう人も少なくありません。しかし、結論から言うと、適切なトレーニングを積めば、ほとんどの人が、安全に自己穿刺の技術を習得することが可能です。在宅血液透析の導入前に行われる教育入院では、指導者の監督のもとで、穿刺の練習が繰り返し行われます。最初は模型を使って練習し、次に、指導者にサポートしてもらいながら、自分自身の腕に針を刺してみる。このプロセスを通じて、正しい角度や深さ、そして何よりも、自分のシャント血管の走行や特性を、誰よりも自分自身が熟知するようになります。実は、自己穿刺には、他人に刺されるのとは違う、いくつかのメリットもあります。まず、自分の血管なので、最も穿刺しやすく、痛みが少ない「スイートスポット」を、自分自身が一番よく分かっています。そのため、慣れてくると、むしろ他人に刺されるよりも、痛みが少なく、失敗も少ないと感じる人が多いのです。また、穿刺の痛みは、針が入る瞬間の不安や恐怖心によって増幅される側面があります。自分でタイミングを計り、覚悟を決めて穿刺することで、精神的なストレスが軽減されるという声もあります。もちろん、習得までには個人差があり、最初は誰でも怖いものです。しかし、この大きな壁を乗り越えた先には、治療の主導権を自分自身の手に取り戻し、より自由な生活を送るという、大きなご褒美が待っているのです。
「穿刺」という壁、在宅血液透析と自己穿刺