人工透析を始めるにあたり、多くの患者さんが抱く素朴な疑問、それが「透析を始めたら、おしっこは出なくなるのですか?」というものです。結論から言うと、透析導入後すぐに尿が全く出なくなるわけではありませんが、多くの患者さんで、時間の経過とともに尿量は徐々に、そして確実に減少していきます。この現象の背景には、腎臓そのものの機能低下が関係しています。腎臓の主な仕事は、血液をろ過して老廃物や余分な水分を尿として排出することです。透析を導入する末期腎不全の状態では、この腎臓の働きが、すでに正常の10%以下にまで落ち込んでいます。透析治療は、この働かなくなった腎臓の仕事を人工的に肩代わりするものです。透析によって、体内に溜まった水分や老廃物が定期的に除去されるようになると、これまで何とか頑張って尿を作ろうとしていた腎臓への負担は軽減されます。しかし、これは同時に、腎臓が「もう自分が働かなくても、機械がきれいにしてくれる」と判断し、残っていたわずかな機能を、いわば“サボる”ようになってしまう側面もあります。使われなくなった機能が衰えるのと同じように、腎臓の尿を生成する能力(糸球体ろ過機能)は、さらに低下を続け、やがてほとんど、あるいは全く尿を作れなくなってしまうのです。この尿量が減少していくスピードには、大きな個人差があります。透析を始めて数ヶ月で無尿(尿がほとんど出ない状態)になる人もいれば、数年にわたってある程度の尿量を維持できる人もいます。これは、透析導入時の腎機能がどのくらい残っていたかや、原因となっている病気、そして後述する血圧の管理など、様々な要因によって左右されます。透析患者にとって、尿量の変化は、自分の腎臓の「最後の頑張り」が、少しずつ終わりに向かっていることを示す、一つの静かなサインなのです。
透析導入と尿量の変化、なぜ尿は出なくなるのか?