透析不均衡症候群は、そのメカニズムが解明されているため、医療現場では、発症を未然に防ぐための、確立された様々な予防策が講じられています。これらのプロフェッショナルな対策によって、重篤な不均衡症候群の発生は、現在では大幅に減少しています。予防の基本戦略は、ただ一つ、「急激な変化を避け、体をゆっくりと慣らすこと」です。まず、透析導入期の患者さんに対しては、「慣らし透析(導入期透析)」と呼ばれる、特別なスケジュールが組まれます。初回の透析から、いきなり目標とする4時間や5時間の治療を行うのではなく、最初は2〜3時間程度の短い時間から始め、徐々に治療時間を延長していきます。これにより、体内の老廃物を、数回に分けて、段階的に除去し、脳への影響を最小限に抑えます。また、治療の効率を意図的に下げる工夫も行われます。例えば、血液を体外へ送り出すスピード(血流量)を、通常よりも遅く設定したり、通常よりも小さいサイズのダイアライザー(人工腎臓)を使用したりすることで、老廃物の除去効率をマイルドにします。さらに、透析液の組成を調整することもあります。透析液のナトリウム濃度を、一時的に通常より少し高めに設定することで、血液から脳への水分の移動を抑制します。そして、より直接的な予防策として、「浸透圧物質の投与」があります。これは、不均衡症候群のリスクが非常に高いと判断された場合に、透析中に、グリセロールやマンニトールといった、脳浮腫を軽減させるための点滴薬を投与する方法です。これらの薬剤は、血液の浸透圧を高めることで、水分が脳へ移動するのを防ぐ働きがあります。これらの複数の予防策を、患者さん一人ひとりのリスクに応じて組み合わせることで、医療スタッフは、安全な透析導入を細心の注意を払ってナビゲートしているのです。
医療現場のプロの技、不均衡症候群の徹底した予防策