透析を始める前の、腎機能が低下してきた「保存期」と呼ばれる段階では、腎臓への負担を少しでも軽くするため、厳しいタンパク質制限が行われます。しかし、透析治療が始まると、このタンパク質の考え方は180度変わります。透析患者さんにとって、「良質なタンパク質を、適量しっかりと摂ること」は、健康を維持する上で非常に重要になります。なぜなら、透析治療そのものによって、血液中からアミノ酸やペプチドといった、タンパク質の構成成分が一定量失われてしまうからです。タンパク質は、筋肉や血液、免疫細胞など、私たちの体を作るための最も基本的な材料です。その摂取量が不足すると、筋肉がやせ衰え、体力が低下し、感染症にかかりやすくなるなど、体が消耗した状態(PEM:タンパク質・エネルギー欠乏状態)に陥ってしまいます。この状態は、生命予後に直結する深刻な問題です。そのため、透析患者さんは、失われる分を補うために、肉、魚、卵、大豆製品といった、体への利用効率が高い「良質なタンパク質」を、体重1kgあたり1.0〜1.2g程度(体重60kgの人なら60〜72g)を目安に、毎日きちんと摂取することが推奨されます。また、タンパク質と同時に、「エネルギー(カロリー)」を十分に確保することも極めて重要です。エネルギーが不足していると、体はエネルギー源として自分自身の筋肉を分解して使おうとするため、タンパク質をいくら摂っても身にならず、消耗が進んでしまいます。厳しい食事制限の中で、必要なエネルギーを確保するためには、タンパク質やカリウム、リンの含有量が少ない、砂糖や油、でんぷん製品(治療用の特殊食品など)を上手に活用して、効率的にカロリーを補給する工夫が求められます。制限ばかりが強調されがちな透析食ですが、「摂るべきものは、しっかりと摂る」という視点も、同じくらい大切なのです。
透析前と大違い!「タンパク質」と「エネルギー」はしっかりと