透析不均衡症候群が引き起こされる、より詳しいメカニズムの鍵を握っているのが、脳を外部の環境変化から守っている「血液脳関門(Blood-Brain Barrier, BBB)」の存在と、「浸透圧」の原理です。末期腎不全の患者さんの体内では、血液中にも、そして脳の細胞やその周りの脳脊髄液にも、尿素(BUN)をはじめとする老廃物が高い濃度で蓄積し、一種の均衡を保っています。ここへ、血液透析を開始すると、ダイアライザー(人工腎臓)という高性能なフィルターによって、血液中の尿素は、非常に速いスピードで除去されていきます。しかし、血液脳関門は、血液中から脳へ、あるいは脳から血液中への物質の移動を、緩やかに制限する関所のような働きをしています。そのため、血液中の尿素濃度は急速に低下するのに対し、脳内の尿素濃度は、なかなか低下しません。この結果、透析中のある一時期、「血液側はきれい(尿素濃度が低い)」なのに、「脳側はまだ汚れている(尿素濃度が高い)」という、大きな濃度の勾配、つまり「浸透圧の差」が生じてしまいます。私たちの体は、この浸透圧の差を解消しようとして、濃度の薄い方(血液)から濃い方(脳)へ、水分を移動させるという物理法則に従います。この時、血液脳関門は、尿素の移動はゆっくりですが、水の分子は比較的容易に通過させてしまいます。その結果、血液中の水分が、浸透圧に引き寄せられるようにして脳組織の中へ移動し、脳が水分を含んで少し膨らんだ状態、すなわち「脳浮腫」を引き起こすのです。頭蓋骨という限られたスペースの中で脳が膨らむことで、頭蓋内の圧力が上昇し、これが頭痛や吐き気、意識障害といった、透析不均衡症候群の様々な神経症状の直接的な原因となります。