人工透析は、働かなくなった腎臓の代わりに血液を浄化し、生命を維持するための不可欠な治療です。しかし、週3回、4〜5時間かけて行われる透析治療も、腎臓の24時間365日の働きを完全に代替できるわけではありません。透析で除去できる老廃物や水分の量には限界があり、次の透析までの間、体内には少しずつ不要なものが溜まっていきます。この蓄積を最小限に抑え、体内の環境を良好に保つために、透析治療そのものと同じくらい、あるいはそれ以上に重要となるのが、日々の「食事療法」です。透析患者さんにとって、毎日の食事は、単に空腹を満たしたり、楽しんだりするためだけのものではありません。何を、どれだけ食べるかという一つひとつの選択が、直接、体調や合併症のリスク、ひいては生命予後にまで影響を及ぼす、まさに「治療の一環」であり「命綱」なのです。健康な人にとっては体に良いとされる食品が、透析患者さんにとっては毒になることさえあります。水分、塩分、カリウム、リンといった成分を厳しく制限し、一方で、透析で失われてしまうタンパク質や、生命活動に必要なエネルギーは十分に確保するという、非常に複雑で緻密な栄養管理が求められます。この自己管理を怠ってしまうと、心不全や高血圧、不整脈、骨のもろさや血管の石灰化といった、命に関わる深刻な合併症を引き起こすリスクが著しく高まります。透析治療を安全に、そして快適に続けていくために、なぜ食事療法が必要なのか、その基本的な考え方を正しく理解することが、長く元気な透析ライフを送るための、最も重要な第一歩となるのです。