透析治療を長期間続けていくと、多くの患者さんは、残存腎機能が完全に失われ、尿がほとんど、あるいは全く作られなくなる「無尿」という状態に至ります。これは、透析治療における、ある意味で自然な経過の一つです。無尿になるということは、体と生活に、いくつかの大きな変化が訪れることを意味します。まず、最も直接的な身体的変化は、「水分・塩分制限が、これまで以上に厳しくなる」ことです。尿として水分を排出する逃げ道がなくなるため、飲んだり食べたりした水分が、ほぼ100%、次の透析までの体重増加に直結します。ドライウェイトの管理が、より一層シビアになり、喉の渇きとの戦いも、さらに厳しいものとなります。同様に、カリウムやリンといった老廃物の排出も、完全に透析治療に依存することになるため、食事制限もより厳格化する必要があります。そして、もう一つの大きな変化は、生活習慣そのものです。これまで、1日に何度も行っていた「トイレに行く」という、当たり前の生理現象が、ほとんどなくなります。外出時に、トイレの場所を気にする必要がなくなるという、ある種の「解放感」を感じる人もいますが、同時に、多くの患者さんが、一抹の寂しさや、「自分の体ではないような感覚」といった、複雑な心理的変化を経験します。「もう自分の腎臓は、完全にその役目を終えてしまったのだ」という、一種の喪失感を抱くことも少なくありません。しかし、多くのベテラン透析患者さんは、この無尿という状態を、嘆くべきことではなく、透析ライフの新たなステージとして、冷静に受け入れています。尿量を気にする必要がなくなった分、体重管理という、より明確な指標に集中できると、前向きに捉えることもできます。無尿になったからといって、悲観する必要は全くありません。それは、透析治療と共に生きていくという現実を、より深く受け入れ、新しい自己管理のスタイルを確立していくための、新たな始まりでもあるのです。