透析患者さんが便秘を放置してはならない理由は、これまで述べてきた高カリウム血症や食欲不振といった、直接的な健康リスクだけではありません。長期的な視点で見ると、慢性的な便秘は、「大腸がん」のリスクを高める可能性があるという、もう一つの深刻な問題が指摘されています。便は、私たちが食べたものの残りカスだけでなく、腸内細菌の死骸や、剥がれ落ちた腸の粘膜、そして、体内で生成された様々な有害物質を含んでいます。便秘によって、これらの物質が、長時間、大腸の粘膜と接触し続けると、腸内環境が悪化し、発がん性を持つ腐敗物質が生成されやすくなります。これらの有害物質が、大腸の粘膜を常に刺激し続けることが、ポリープの発生や、がん化の引き金になるのではないかと考えられているのです。透析患者さんは、健常者に比べて、がんの発生率が全体的に高いことが知られていますが、特に大腸がんのリスクも高いという報告が、国内外の研究で複数示されています。その一因として、透析患者さんに非常に多い「慢性的な便秘」が、深く関わっているのではないかと推測されています。もちろん、便秘だけが大腸がんの全ての原因ではありません。尿毒症による免疫力の低下や、慢性的な炎症状態なども、複雑に関与していると考えられます。しかし、便秘という、改善可能な生活習慣が、がんのリスク因子の一つである可能性を無視することはできません。毎日、快食・快便を心がけ、腸内環境を健やかに保つことは、日々の快適な生活に繋がるだけでなく、将来的な大腸がんの予防という、長期的な健康投資でもあるのです。定期的な便通は、体からの大切なお便り。それを滞らせないように、日々の生活の中から意識していくこと。それもまた、透析と共に、長く元気に生きていくための、重要な自己管理の一つと言えるでしょう。