大切に管理している胸部シャント(人工血管グラフト)も、長年使用していると、腕のシャントと同様に、様々なトラブルに見舞われることがあります。これらのトラブルの「サイン」にいち早く気づき、早期に対処することが、シャントの寿命を延ばし、安定した透析治療を継続するために不可欠です。最も頻繁に起こるトラブルが、「狭窄(きょうさく)」と、それに続く「閉塞(へいそく)」です。これは、グラフトと自己血管の吻合部や、グラフト内、あるいはグラフトから先の静脈が、様々な原因で狭くなってしまう状態です。そのサインとしては、「シャント音(スリル)が弱くなる、または音が甲高くなる」「透析中の脱血が悪くなる」「止血に時間がかかるようになる」「腕や胸、顔がむくむ」といったものが挙げられます。これらのサインに気づいたら、すぐに透析施設に報告する必要があります。治療は、カテーテルを用いて、狭くなった部分を風船で広げる「VAIVT(バスキュラーアクセス・インターベンション治療)」が一般的です。次に、警戒すべきトラブルが「感染」です。穿刺部位やその周辺が、「赤く腫れる」「熱を持つ」「痛む」「膿が出る」といった症状は、感染の典型的なサインです。発熱を伴うこともあります。感染を放置すると、細菌が血流に乗って全身に広がり、敗血症を引き起こす危険性があるため、一刻も早い抗生物質による治療が必要です。重症化した場合は、感染したグラフトの摘出が必要になることもあります。このほかにも、グラフトの周囲に血液や体液が溜まって、こぶのように腫れる「血清腫(セローマ)」や、穿刺の失敗による「血腫(内出血)」、皮膚が薄くなってグラフトが露出しそうになる、といったトラブルもあります。日々の自己チェックで、これらの「いつもと違う」サインを見逃さないこと。それが、胸部シャントという最後の砦を守るための、最も重要な患者の役割なのです。
胸部シャントに起こりうるトラブルとそのサイン