「たかが便秘」と、軽く考えてはいませんか?健常者であれば、便秘は一時的な不快感で済むことが多いかもしれませんが、透析患者さんにとって、便秘は、時に命に関わる危険な合併症を引き起こす引き金となり得ます。その危険性を正しく理解しておくことは、自己管理の意識を高める上で非常に重要です。まず、最も警戒すべき危険性が「高カリウム血症」のリスク増大です。便は、体内の不要なカリウムを排出するための、重要なルートの一つです。便秘によって、カリウムを豊富に含んだ便が、長時間、腸内に滞留すると、その間に腸管からカリウムが再び体内に吸収されてしまい、血液中のカリウム濃度が急上昇する危険性があります。高カリウム血症は、致死的な不整脈や心停止を引き起こす、透析患者にとって最も恐ろしい合併症の一つです。次に、「腸閉塞(イレウス)」のリスクです。硬くなった便が腸管を完全に塞いでしまうと、激しい腹痛や嘔吐を引き起こし、緊急の入院や手術が必要となることがあります。また、強くいきむことで、血圧が急上昇し、脳出血や心臓への負担を増大させる危険性もあります。さらに、便秘による腹部の膨満感や不快感は、「食欲不振」に直結します。食事量が減ると、体に必要なタンパク質やエネルギーが不足し、筋肉が衰え、体力が低下する「PEM(タンパク質・エネルギー欠乏状態)」という、生命予後に悪影響を及ぼす深刻な栄養障害に陥ってしまいます。このように、透析患者さんの便秘は、単にお腹が張って苦しいという問題だけでなく、電解質異常、循環器系への負担、そして栄養状態の悪化といった、全身の健康を脅かす、重大な危険性をはらんでいるのです。