なぜ透析患者にとって災害対策が「命」に関わるのか
私たちの日々の暮らしは、いつ、どこで、大規模な地震や台風、洪水といった自然災害に見舞われるか分かりません。多くの人にとって災害は「非日常」の出来事ですが、人工透析によって生命を維持している患者さんにとって、それは「日常(=透析治療)」が突然奪われる、命に直結する非常事態を意味します。透析治療は、電気、清浄な水、そして専門的な医療機器とスタッフという、現代社会の安定したインフラがすべて揃って初めて成り立つ、極めて高度な医療です。しかし、ひとたび大災害が発生すれば、これらのライフラインは容赦なく寸断されます。停電すれば透析装置は動かず、断水すれば治療に必要な清浄な水は確保できません。道路が寸断されれば、患者さんはクリニックに通院することも、医療スタッフが出勤することもできなくなります。週に3回、定期的に血液を浄化しなければ体内に毒素が溜まり、生命を維持できなくなる透析患者さんにとって、透析が受けられない状態が続くことは、死の危険が刻一刻と迫ることを意味します。このような極限状況下で、パニックに陥らず、冷静に、そして的確に、自らの命を守るための行動を起こすことができるか。その成否を分けるのが、平時からの「備え」です。その備えの中核をなす、最も重要なツールの一つが、日本透析医会などが普及を推奨している「透析災害時アクションカード」です。これは、災害という混乱の中で、自分が何をすべきかを具体的に示してくれる、まさに命の羅針盤となるものです。災害対策は、他人事ではありません。透析患者さんにとって、それは治療の一環であり、自らの命を守るための、最も重要な責務なのです。