人工透析を受ける患者さんにとって、治療そのものと同じくらい、あるいはそれ以上に日常生活に重くのしかかるのが、「水分制限」という見えない敵との戦いです。喉がカラカラに乾いているのに、グラス一杯の水を心ゆくまで飲むことができない。夜中に猛烈な渇きで目が覚めても、決められた量しか口にできない。この「飲みたいのに飲めない」という根源的な欲求を常に我慢し続けなければならないつらさは、経験した人でなければ本当の意味で理解することは難しいでしょう。この精神的な苦痛は、時に治療への意欲さえも失わせてしまうほど深刻です。では、なぜ透析患者は、これほどまでにつらい水分制限を強いられるのでしょうか。その理由は、失われた腎臓の機能にあります。健康な腎臓は、24時間365日休むことなく、体内の水分量を尿として調節してくれています。しかし、腎機能が失われた透析患者さんでは、飲んだ水分がほとんど尿として排出されず、次の透析までの間、体内に溜まり続けてしまいます。この溜まった水分は、心臓や肺に直接的な負担をかけ、高血圧、心不全、肺水腫といった、命に関わる深刻な合併症を引き起こす最大の原因となります。また、透析間の体重増加が多すぎると、4〜5時間という短い透析時間で大量の水分を体から引き抜か(除水)なければならず、急激な血圧低下や足のつり、吐き気といった、透析中のつらい副作用に繋がります。つまり、水分制限は、単なる「我慢」ではなく、自らの命を守り、安全で快適な透析治療を受けるために、避けては通れない「治療の一環」なのです。このつらさを乗り越えるためには、なぜ制限が必要なのかという医学的な理由を深く理解し、その上で、どうすれば少しでも楽に乗り越えられるかという知恵と工夫を身につけることが、何よりも重要になります。