病院に週3回通う血液透析とは対照的に、主に自宅で、自分のペースで治療を行うことができるのが「腹膜透析(PD)」です。この方法は、時間や場所の制約が少なく、社会活動を続けたいと願う人にとって、非常に魅力的な選択肢となります。腹膜透析は、私たちのお腹の中の、内臓を覆っている薄い膜である「腹膜」を、天然のフィルターとして利用します。腹膜には、毛細血管が網の目のように張り巡らされており、小さな穴の開いた半透膜として機能します。治療を始める前に、まずお腹に「カテーテル」と呼ばれる、直径5mmほどの柔らかいチューブを埋め込む、簡単な手術を受けます。このカテーテルが、透析液をお腹の中に出し入れするための、唯一の出入り口となります。実際の治療は、「バッグ交換」と呼ばれる操作を、患者さん自身や家族が行います。清潔な環境で、透析液が入ったバッグをカテーテルに接続し、自分のお腹の中(腹腔)に透析液を注入します。そして、カテーテルを閉じて、透析液をお腹の中に溜めておきます。この溜めている時間(貯留時間)に、腹膜を介して、血液中の老廃物や余分な水分、塩分などが、濃度の差によってゆっくりと透析液側へと引き寄せられていきます。4〜8時間後、再びカテーテルに空のバッグを接続し、老廃物で汚れた透析液を体外へ排出します。そして、また新しい透析液を注入する。この一連のバッグ交換を、日常生活の中で、1日に3〜4回繰り返します。通院は月に1〜2回の定期検診だけで済むため、仕事や学業、趣味や旅行など、ライフスタイルを大きく変えることなく治療を続けられるのが最大のメリットです。また、血液透析に比べて、ゆっくりと時間をかけて老廃物を取り除くため、体への負担が少なく、血圧の変動なども穏やかです。残っている腎臓の機能が、血液透析よりも長持ちしやすいという利点もあります。もちろん、毎日の自己管理や感染症予防が不可欠ですが、腹膜透析は、透析患者の自立を支える重要な治療法なのです。