透析治療は、腎臓の働きのすべてを完全に代行できるわけではありません。そのため、透析治療と並行して、日々の「食事療法」をきちんと行うことが、合併症を防ぎ、元気に長生きするためには不可欠です。透析患者さんの食事管理は、単に「塩分を控えましょう」といった一般的な健康法とは異なり、いくつかの重要なポイントがあります。まず、最も大切なのが「水分」と「塩分」の管理です。腎臓の機能が低下すると、尿として水分を十分に排出できなくなります。飲み過ぎた水分は、透析と透析の間に体重増加として体に溜まり、心臓や肺に大きな負担をかけ、高血圧や心不全の原因となります。塩分を摂り過ぎると、喉が渇いて水分を余計に摂りたくなってしまうため、水分管理と塩分管理は常にセットで考えます。次に重要なのが「カリウム」の制限です。カリウムは、野菜や果物、芋類などに多く含まれるミネラルで、健康な人にとっては必要不可欠な栄養素です。しかし、腎臓が悪いとカリウムを尿中に排出できず、血液中のカリウム濃度が高くなりすぎると、不整脈や心停止といった、命に関わる深刻な事態を引き起こす危険性があります。そのため、生野菜や果物の摂取を控えたり、野菜は一度茹でこぼしてから調理したりといった工夫が必要になります。また、「リン」の管理も欠かせません。リンは、乳製品や加工食品、肉や魚などに多く含まれています。血液中のリン濃度が高くなると、骨がもろくなったり、血管が硬くなる動脈硬化を進めたりする原因となります。リンは多くの食品に含まれているため、完全に避けることは難しく、多くの場合、食事と一緒にリン吸着薬という薬を服用します。一方で、「タンパク質」は、透析によって体外へ失われてしまうため、透析前とは異なり、むしろ良質なタンパク質(肉、魚、卵、大豆製品など)を適量、しっかりと摂ることが推奨されます。これらの厳しい制限を守りながら、エネルギーは十分に確保するという、複雑で緻密な栄養管理が、透析生活を支えるもう一つの柱なのです。
透析と食事、知っておきたい食事療法の基本