胸部に人工血管(グラフト)を用いてシャントを作製する手術は、腕のシャント手術に比べて、やや規模が大きく、専門的な技術を要します。通常、全身麻酔または局所麻酔と鎮静薬を併用して、患者さんが苦痛を感じない状態で行われます。手術の具体的な方法は、どの動脈と静脈をつなぐかによって異なりますが、一般的な「ループ状胸部グラフト」の一例を見てみましょう。まず、執刀医は、腕の付け根の近く(腋窩部)と、胸骨の横あたりの、2ヶ所の皮膚を数センチ切開します。そして、皮下にトンネル(スペース)を作成し、そこにループ状に曲げた人工血管を通します。次に、腕の付け根の切開部から、深い場所にある「上腕動脈(または腋窩動脈)」を露出し、人工血管の片方の端を、この動脈の側面に縫い付けます(吻合)。これにより、圧力の高い動脈血が、人工血管の中へと流れ込み始めます。続いて、胸骨の横の切開部から、胸の中心近くにある太い静脈(例えば内胸静脈や腋窩静脈)を露出し、人工血管のもう一方の端を、この静脈に縫い付けます。これで、動脈から人工血管を通り、静脈へと抜ける、新しい血液のバイパスルートが完成します。血液が勢いよく流れていることを確認し、皮膚を縫い合わせれば手術は終了です。手術後は、数日間の入院が必要となる場合があります。人工血管は、自己血管シャントのように「成熟」を待つ必要はありませんが、手術部位の腫れや内出血が落ち着き、皮膚とグラフトがしっかりと癒着するまで、通常は2〜3週間程度の期間をおいてから、穿刺を開始します。この手術によって、腕の血管が使えなくなった患者さんに、再び安定した透析治療を続けるための、新たな命綱が与えられるのです。